2012年11月7日水曜日

海外各国に見る、遺伝子組み換え作物栽培の動向(第6回 インド(下))

前号では、インドでBtワタが普及した事により、ワタ生産量や単収、輸出量がどの様に変化したのかをご紹介しました。今回はBtワタの普及によりインドの農業生産者、農村経済にどの様なメリットがもたらされたのかをご紹介します。

ワタの単収増加による、農村における雇用創出

Btワタ導入後、単収が増加して収穫量が増えたため、収穫(筆者註:インドでは手作業による収穫が主流)や収穫後の調整(ゴミの除去等)の作業が増加しました。これにより、Btワタを導入した地域では農村に新たな雇用が生まれています。インドでは収穫、収穫後の調整は主に女性が活躍する作業であるため、Btワタ導入による雇用創出は女性 において特に顕著であり、インド全体では、Btワタ利用によって農村の女性雇用が4億2,400万日・人増加し、女性の雇用労働者の賃金単価は、1ヘクタール当たり55ドルから82ドルと55%増加したと報告されています(1)

ワタの栽培コスト、農家収益の変化

1ヘクタール当たりのワタの栽培コスト(収穫後の作業に必要な人件費を含む)、生産物売上高、純利益をBtワタ導入前、導入後で比較すると、栽培コストは導入前、導入後で67.68 %増加しました。これはBtワタを用いる事で収穫量が増加し、収穫等の作業に要する人件費が増えた事が影響しています(注)。しかし収穫物の売上高が94.06%増加したため、最終的な生産者の純利益は375 %増加しており、生産者はBt作物の利用によ って大きな収益増加を成し遂げています(2)。この純利益の増加は農場経営規模と相関関係がなく、小規模生産者/大規模生産者の両方にメリットをもたらしています (2)
(注)栽培コスト増加の内訳は、人件費(52.69 %)肥料費(10.84 %)種子代(9.61 %) 機械(8.86 %)となっています(2) 

農薬使用量の低減と、生産者の農薬中毒事故の減少

Btワタ導入後、ワタ主要害虫オオタバコガの被害が減少したため、ボールワーム防除剤の市場規模(金額ベース)は2004-2010年の間に85%減少しました(1)。また農薬使用 量、使用回数の減少により、生産者における農薬中毒事故が減少しました。Non-GM、Btワタそれぞれを栽培する生産者の報告では、1栽培シーズン平均の中毒事故の報告数は、Non-GMワタ生産者で平均1.6回、Btワタ栽培で0.19回です。Btワタの普及により最低でも年間240万回の中毒事故が未然に回避されていると報告されています(1)

Btワタを栽培した農家の意識調査

ワタ生産者からの聞取りを分析した結果、94 %の生産者がBtワタの単収が従来品種に比べて多いと回答し、87 %が収益も多いと回答しました。また全体のの76 %がBtワタ導入により農薬使用量を、71%が農薬購入費用を削減できたと回答しています(2)

Btワタ導入による収益増加分は、何に使われたか

Btワタ導入による収益増加の使い道を聞取り調査したところ、調査対象の85%が子供への教育投資、77 %が食生活の充実、75%が家族の健康に関する支出、70%がレクリエーションや社会活動に利用したと回答しています(2)


(1) ISAAA Briefs, No.43 p.51-87 (2012)
(2) STUDY ON SOCIO-ECONOMIC IMPACT ASSESSMENT OF BT COTTON IN INDIA http://farmersforum.in/policy/study-on-socio-economic-impact-assessment-of-bt-cotton-in-india/