2013年10月10日木曜日

フィリピン「遺伝子組み換えイネ(ゴールデンライス)を破壊したのは誰か」をめぐる真実 (環境活動家マーク・ライナス氏寄稿文)

【寄稿文要約】
 2013年8月に、ニューヨークタイムズ、ニューサイエンティスト、BBCニュースなどのメデイアにおいて、「フィリピンで400人もの怒った農民が、遺伝子組み換えイネ(訳注:ビタミンA含有量を増加させた、ゴールデンライス)の試験圃場を破壊した」というニュースが報道されました。
しかし、その内容は事実とは異なるもので、実際には、「IRRI(International Rice Research Institute: 国際稲研究所)でのイベントに参加するためにバスでやってきた農民がうろたえる横で、遺伝子組み換えに反対する活動家達が穀物を破壊した」というものでした。
ゴールデンライスの試験は、フィリピンの国際稲研究所(IRRI)や公的機関により実施されるプロジェクトであり、将来的には農家へ種子が無償提供され、種子の増殖と栽培が奨励される予定でした。しかし「ゴールデンライスは多国籍企業がフィリピンのコメ市場を乗っ取るのを促すために生産されている」との陰謀説を主張する活動家組織もあり、グリーンピースも「ゴールデンライスは健康面で問題がある」と主張してこの破壊行為を支持しましたが、実際リスクがあるという証拠は何もありません。

このゴールデンライスの試験圃場の破壊は、意味もない多くの死者を生み出す事になるかもしれません。

ゴールデンライスは、遺伝子組み換え技術を使ってビタミンAの前駆体であるベーターカロチンを生産するよう改良されたもので、黄金色をしています。コメに頼って生活する何百万もの貧困諸国の人々は、食事からビタミンAを摂ることが出来ないため、ビタミンA欠乏症により、失明し、死に至っています。世界保健機構(WHO)によると、毎年25万人から50万人の子供が、食事から十分なビタミンAを摂ることができないために失明し、その半分が12か月以内に死に至っている推定しています。また、ビタミンA欠乏症は免疫機能を低下させるため、下痢や麻疹、肺炎のような他の要因からの総合的な死亡率をも引き上げています。これらのビタミンA不足による疾病の犠牲者は、年間で約100万人、一日当たりに換算して約2,700人、そのほとんどが5歳以下の子供であると、推測されています。
世界的なビタミンA欠乏症の解決には、食事の多様化、カプセル状のサプリメントの提供、そして食物の栄養価の強化も大切な戦略である事は、IRRIのホームページにも記載されています。しかし、カプセル状サプリメントの場合、三か月ごとに子供に与えなければならず、物流面で大きな課題となり単独では機能しません。アメリカ科学振興協会の前会長であるニーナ・フェドロフは「ゴールデンライスは、想像できるもっとも直接的な方法、すなわち主食を通して重要な栄養問題を解決しようとするものだ」と述べています。

今回の破壊活動により、圃場試験のやり直しが必要となれば、ゴールデンライスの上市は、何か月も遅れることになるでしょう。活動家たちがさらに妨害を行ったり、プロジェクトを邪魔する戦略をとってくると、それ以上に遅れる可能性もあります。これら活動家たちによって、ゴールデンライスの上市が遅れることになれば、どれくらいの数の子供たちが余計に死ぬことになるでしょうか?遺伝子組み換えに反対する活動家たちがプロジェクトの邪魔をせず、予定通りに計画が進めば、ゴールデンライスはフィリピンで早ければ二年で、その直後にバングラデシュ、インドネシアで入手できるようになります。

遺伝子組み換え作物に反対する活動家が将来的に成功を収めれば、その成功は、これら東南アジアの各地で人目につかず、人里離れた貧困地域で苦しみながら死んでいく子供たちの墓石に刻まれることとなるでしょう。

マーク・ライナス (環境活動家、元GM反対活動家)
2013年8月26日 / Slate (英語)
http://www.slate.com/blogs/future_tense/2013/08/26/golden_rice_attack_in_philippines_anti_gmo_activists_lie_about_protest_and.html